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木曾路名所図会

程もなく大河にいづれば、しばらく舵工憩ふに、此河はいかなる名ありと問ければ、船匠煙管お喰へながら、これは利根川といふ、水源は蚕養川、あるいは筑後川(○○○)なども落合ふて、坂東太郎ともいふ、坂東の一の流れなれば、太郎は其首と呼ぶならし、両岸はるかに隔て、夕陽西に傾けば、棹の歌哀に浪による、見るめはこヽろなけれども、黒白おわきまへ、白州にたてる鷺は心あれども、真砂地にまどへり、平江渺々として落日沈々たり、乾坤碍ずして船は一葉の如く飛んで神崎てふ所にいたる、