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東遊雑記

抑此最上川といへるは海内第一の早川にして、流は滝のごとく、左右は大山峨々として、きおいかヽり、舟お寄る便り更になく、〈◯中略〉此川は、早川と雲のみにて、大河と雲にもあらず、此ころ雨しげく、常水よりは三尺計も水まして如斯と舟人の雲也、見る所東海道天竜川の常水ほどはなかりしやふに思われ侍りし也、〈◯中略〉 予画にうとくして、最上川の図たる所更になし、左右の山峨々として、岩石きほひかヽりて、左に記す滝あまたにして風景あり、しかし所せまくして、聞し程の景にはあらず、清水より清川へ七里の舟路といへども、八九里もあり、山川早川にて危く、折ふしくつがへりて死亡のものありと土人の物語也、此頃は既に清川のもの二人死せしとなり、〈◯中略〉 頭光滝 佐々木の明神 危日滝 千本の滝 多木沢の滝 鷹巣滝 馬の爪滝 〓の滝 舟かな石 八幡の礫石 十夕し滝 柳滝 七滝 うるし滝 大の滝 早滝 たば子滝 滝くらへ滝 錦明神 浮石 石滝 白糸の滝 何れも雅なる名のありて、やさしく聞ゆれども、象あるにはあらず、案内のものヽ記お写し侍るなり、清水より清川までの川筋に斯のごとし、