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東国旅行談

仙人堂 同国〈◯出羽〉最上川の川辺にやり、此川は流はやき事は日本第一といふ、大石田宿といふ所より秋田へ行たび人は、此川船にのり、相貝宿、鷹の巣宿、古口宿、清川宿まで十五里の間也、其ながれ早きことお矢お射るがごとく、三時ばかりに清水へ著事あり、又渇水の時は、一日もかヽる事も有とかや、此川に四十八瀬、四十八滝あり、中にも白糸の滝とて名所なり、〈◯中略〉堂守の修験者は、杉の木の大丸太お舟の形に彫たる長三間ばかりなるに乗て、大杓子の如くなる物お楫として、旅人の船に漕よせ、纜おもやいて御札御符お授あたふといふ、諸病平愈の御守なり、則仙人大権現と拝し奉る、霊験あらたに在ます也、また修験者の舟と同じやうなる舟に乗て、女の商人、餅お売に来る、此女御国ぶしとて唄お諷ふ、古風にしておもしろし、此最上川は名所にして、古歌多しといへども、事繁ければこヽにもらし畢、