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和州旧跡幽考
十一
吉野川(○○○) 八雲(葛葉)刺出雲の子等が黒がみは芳野の川の沖になづそふ 我(同)もこが犢鼻にするつぶれ石の吉野の川に氷魚ぞかヽれるは 吉野川(元真家集)おろす筏の折ごとに思ひもよらず波の心お 芳野川の河上は、大台が原といふ所也、北山に越行道の姨が峯といふなる所のはるかの、左の方にして見わたしにもおよぶ所にあらず、まして人の通ふ所にもあらず、隻いとひろく葎荻などの高くしげり、藤かづらはひおほひて、浅沢などやうの水あり、その中にいとふかくて、巴が淵などヽいふ所ありとかや、風だにふけば、そのしげりの露落つもりて、川の水累おなし、北よりふけば熊野川の水おまし、西よりふけば伊勢の宮川のながれおそへ、東よりふけば芳野川の水かさめりとなり、