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甲子夜話
二十九
今年〈癸未◯文政六年〉梅雨の頃、日和続て炎気堪がたきほどなりしが、土用に入りてより雨霖おなし、昼夜陰霽一ならず、六月廿一日、増上の恵照院普門律師のもとに往しに、大川の辺に到れば、川水溢れて往還の道も殆んど川中に異ならず、両国橋お渡るに、川水赤く、橋下に脹落るさま、急流眼お射る如し、〈◯下略〉