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木曾路名所図会

養老滝 多芸郡多度山にあり、高さ七丈余、樽井南宮より南二里許、〈◯中略〉 それ此爆布は、いにしへより名高く、代々の天子もこヽに行幸し給ふ事旧記に見ゆ、道は垂井の南宮お去る事二里許にして、一都会の地あり、これお高田といふ、それより山路にして登れば、養老亭てふ所ありて、山間に風流の楼お建て、其傍に浴室ありて、入湯の人、養老水お湯にしてこヽに浴し、老おやしなふの謂なり、また徒然なる時は、妓婦出て筝お弾き、三弦お鳴らして宴お催す、それより養老の祠あり、こヽより阻づたひにして渓河お越、石お伝ひ嶮お登りて滝お見る、其音遠近にひヾきて潺湲たり、山お多度山といひ、滝の流れお田跡川と雲、又滝のほとりに信夫石といふ名石出る、石面に垣衣草の摸形あり、又根芹此所の名産也、他境に勝れて香強し、真に範希文が滝の詩に、白虹澗お下つて飲といひしも、これらにや比せん、名にしおふ此国第一の名どころなるべし、 ◯按ずるに、養老滝の事は、宜しく泉篇醴泉条お参看すべし、