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大和物語

昔ならのみかどにつかうまつるうねべありけり、かほかたちいみじうきよらにて、人々よばひ、殿上人などもよばひけれど、あはざりけり、そのあはぬ心は、みかどおかぎりなくめでたき物になん思ひ奉りける、御門めしてけり、さて後又もめさヾりければ、かぎりなく心うしと思ひけり、よるひる心にかヽりておぼえ給つヽ、こひしくわびしうおぼえ給けり、御門はめししかど、事どもおぼさず、さすがにつねには見え奉る、なお世にふまじき心ちしければ、よるみそかにいでヽ、さるさはの池に身おなげてけり、かくなげつとも、御門はえしろしめさヾりけるお、事のついで有て、人のそうしければ、聞しめしてけり、いといたうあはれがり給て、いけのほとりにおほみゆきし給て、人々に歌よませたまふ、かきのもとの人丸、 わぎも子がねぐたれがみおさるさはのいけのたまもと見るぞかなしき、とよめる時に、御門、 さるさはのいけもつらしなわぎも子がたまもかつかばみづぞひなまし、とよみ給ひけり、さてこのいけの〈◯の以下四字、拠一本補、〉ほとりに、はかせさせたまひてなん、かへらせおはしましけるとなん、