[p.1231]
海道記
十一日〈◯貞応二年四月〉に橋本おたつ、橋のわたりより行々たちかへりみれば、跡にしらなみのこえは、すぐるなごりおよびかへし、路に青松の枝は、あゆむもすそお引とヾむ、北にかへりみれば、湖上はるかにうかんで、なみのしは水の顔に老たり、西にのぞめば湖海ひろくはびこりて、雲のうきはし風のたくみにわたす、水郷のけしきは、かれも是もおなじけれども、湖海の淡鹹は気味これことなり、浥のうへには浪に翥、みさご涼しき水おあふぎ、舟の内には唐櫓おすこえ、秋のかりおながめて夏の空にゆく、本より興望は旅中にあれば、感腸しきりに廻りておもひやみがたし、