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丙辰紀行
今切 遠州荒井の浜より、奥の山五里ばかり海となりて、大船も出入事、むかしは山につヾきたる陸地なりしが、中比山より、ほらの貝おびたヾしくぬけ出て海へ入ける、其跡かくのごとく海となりて、今切と名づくるよし、古老いひつたへたり、我国は伊奘諾、伊奘冊のうみ給ひ、大己貴、少彦名のつくられけるといへば、其むかしはいかヾ侍りけむ、もろこしの華山お、巨霊が擘開して水おやりける事も侍るにや、 一葉扁舟寄旅身 潮波通信遠州浜 海山何借巨霊手 我国元来造化神