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南遊紀行諸州めぐり
四紀伊
和歌浦、〈〇中略〉俗説に此浦におなみ有て、めなみなし、故に片男波と雲、此説非也、男波とは大なみ(○○○)なり、め波とは小波(○○)也、われもとより其誤お信ぜず、あめつちの内、などてかヽるつねの理にたがひぬる事やあるべきとおもひしかば、かへりて後人にもかたり、其迷おさとさんため、わざと此浜辺にやすらひて、心おとめて久しく見侍りしに、いさヽか俗説のごとくにはなし、隻よのつねの所のごとく、おなみ、めなみともに、いくたびもたち来れり、和歌の浦にしほみちくればかたおなみと、古歌によめるは、俗説の意にあらず、しほみち来りて、潟(かた)なくなると雲意也、其故あしべの方にたづ鳴来れるといふ意明らかにきこゆ、万葉第六巻に此歌あり、滷乎無美(かたおなみ)とかけり、此文字にて歌の意明らかなり、乎(お)はやすめ字也、しほみちくれば潟(かた)なくなると雲意也、