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万葉集抄
十四
ひたちのくにヽ、なさかのうみといふは、いづくにあるぞと、としごろあまたの人にたづぬれども、すべてしりたる人なし、名おだにもきかずとなん申す、さればちからおよばぬによりてこれお案ずるに、常陸の鹿島の崎と、下総のうなかみとのあはひより、遠いりたる海あり、すえはふたながれなり、風土記には、これお流海とかけり、今の人は、うちのうみとなん申す、そのうみ一ながれは、北のかた鹿島の郡、南のかた行方の郡とのなかにいれり、ひとながれは、此のかた行方郡と、下総の国のさかひおへて、信太の郡茨城の郡までにいれり、しかるにかのうちのうみ、塩のみつるときには、浪殊にさかのぼる、しかれば浪のさかのぼる義によりて、なさかのうみといふべき也けり、