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東国旅行談

象潟 羽州第一の名所にして、絶妙風景の地なり、〈◯中略〉扠きさかたの風景は、日本無双の名地なり、海おさる事一里二十町あり、潮しづかにさし来る入江なり、水のたまりお潟といふ、因て此名およぶ、八十八潟、九十九しまあり、中にも松島、入潮島、弁天島、法性島等は、別して風景よきゆへにや、旅人、近村の人多く集り、弁当さヽへお携て酒宴お催し、春の日の永々しきも短しと疑ひ、家に帰る事おわするヽ、実にもことはりなるかな、其絶景中々筆には尽がたし、扠島より島にわたりて遊に、潟の浅きこと大潮小夕によらず、膝おすぎず、潮夕のさしひきにしたがひ、潟の水に浅深あるべき事なるに、潟の浅深、増減せざる事、まことに不思議の霊場なり、