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東雅
一地輿
浦うら 義不詳、倭名抄には四声字苑お引て、浦大川傍曲渚、船隠風所也と註せり、〈古語にうらといひし事多し、浦お呼びてうらといひし、いづれの義にやあるらん、うへうらなど雲ひしは表裏なり、又おもてうらともいひし、これに同じ、又万葉集抄に、うらとは下なり、うらもなしなど雲ふが如き是なりといふ、うらみといひ、うらやむといひ、うらおもひといふの類、皆これ心の内に思ふ所おいへばうらとは下なりといふも、また裏といふ義に異ならず、又占卜おうらといひ、うらなひといふが如きは、うらあはすなどいふに同じくして、亀甲のうらの方お鑽りて、はヽか火にて焼て、表の方の斥し状お見る事なれば、これも又裏といふ義に異ならず、また上おもうらといふ、うらうらしともいひ、またうれともいふ是なり、うれといふは、うらといふ語の転ぜしなり、また末おもうらといふ、草にうらわかみと雲ひ、木にうらがれといふが如き是なり、又古には桑樹おうらくはのきと雲ひしと見えたり、また麗はしといふ事お、うらくはしといひ、また和らげる事お、うらヽといふ、春の日の和らげるお、うらヽなど雲ふが如き是也、旧説にすべて重ね言ふ詞には、上のことばのすえお重ねいふ、たとへばはらはらといふべきお、はららといひ、きらきらといふべきお、きらヽといふが如き是なりといひけり、さらばうらヽと雲ひしも、うらうらといふ如くなるなり、是等のことばの中、浦おいひて、うらといひしは、倭名抄に、船隠風所なりと見えし説に拠らば、風浪の平かに和らげる所おさしいひしとも雲ひつべきなり、〉