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伊勢参宮名所図会

二見浦 二見は、清き渚、打越浜の辺りの総名にて、此お立石といふは、注連はりし二つの石に付ていへり、二見の名義説々あれども、悉く信ずるに足らず、夕の干ぬれば、いろ〳〵貝お拾ひ藻お取、ある時は網引などして、あまのしはざども甚興あり、 或は立石の注連は、興玉の拝所にて、遥沖の大成岩の夕干にも見へぬ岩神あり、是猿田彦にて、わだつみの神也雲々、 されどもわだつみは、日本紀に海童と書て、たヾ海の神お拝する成べし、猿田彦といふには及ぶべからず、又磯の砂、珊瑚砂と号るものうち交りて、実に珊瑚に似たる石あり、 又旭に富士お見る事、参詣記に雲がごとし、日の地下お離んと欲する間は、全く見へて、景情猶心お澄せり、