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西遊記続編

筑前に遊びし時、博多の崇福寺に暫くとヾまりて、此あたり一見す、〈◯中略〉詩お賦し禅お談ぜしいとま、当国の奇事おとひしに、其座に在る人の曰、此国の海中に鐘あり、其処お鐘が岬(○○○)といふ、織幅山の艮の方、岸お離るヽ事才に五町ばかりの所にあり、船にて其処にいたれば、よく見ゆるよし里人いふ、是はむかし三韓より撞鐘おふねに積て渡せしに、竜神鐘お望み、此海にいたりて浪風俄に起り、船くつがへりて、鐘は終に海底に沈みぬ、其三韓よりわたりし事は、古き事にや、万葉集の歌にも、千早振鐘がみさきお過れども我は忘れず志賀のすめ神、よみ人しらずと出たり、又新古今にも、白浪の岩打波やひヾくらん鐘のみさきの暁の空、衣笠内大臣、又家の集、音に聞く鐘のみさきはつきもせずなくこえ響くわたりなりけり、俊頼、又大名寄に、聞あかす鐘の岬のうき枕夢路も浪に幾夜へだてぬ、など諸集に見へたり、〈◯下略〉