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玄同放言

秋田島沼 出羽国村山郡、山形の奥なる大沼の浮島は、〈大沼在置賜郡〉東遊記〈五巻〉に載せたり、〈◯中略〉彼浮島なる島遊といふことは、未曾有の奇観なるおつたへ聞きかたりつぎて、今はしらざるものもなければ、奥羽に歴遊する人は、かならずいゆきて観るもの多かり、是のみならず、同国秋田郡寺内に程近き、島沼といふ沼にもまた島遊の奇観あり、是おば観る者希なるべし、〈◯中略〉曩に秋田人、茂木蕉窻来訪せし日、余この事お告げて、そがいふまに〳〵興継して画せたり、猶伝聞の失あらん歟、蕉窻雲、久保田城より西の方なる街道お土崎湊道とす、〈◯中略〉彼島沼は、街道より東北二町許にあり、この島沼も、その岸おのづから離れて水中お遊行し、又旧の岸に著くこと、大沼なる浮島に異ならずといへり、〈◯中略〉或はいふ、秋田なる島沼は近年いたく荒れて、又島遊のことなしとぞ、いまだしかるや否おしらず、