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大地震暦年考
地震知前兆説〈我嘉永六年清の咸豊三年〉なちゆるれーきてどきりふとこの書中に見えたり 磁石は、地震お前兆するの一法とす、紀元千八百五十三年の史に、この法お記載せり、夫疾風大雨のごときは、晴雨考おもつて前知する事お得るといへども、地震の前兆お知るに至るは、今日までいまだ世に公明なる事なし、らつちめんとん〈人の名也〉仏郎斯国の使として、共和国あるけんとんてんす〈国の名也〉に至りし時、ぱれーす〈仏郎斯の大都府の名〉の学校より地震前兆発明の一法お伝送せしなり、その法は、鉄の小片お磁石に附著せしむる者にして、他物お用るにあらず、地震には磁石その鉄に親和するの力、暫時の間消滅するゆえに、附著の鉄かならず落下す、是おもつて地震の前兆とす、〈◯中略〉この一大発明はぱれーすの学校お待てはじめて世に知るとおもふ事なかれ、越列機帝利的多麻窟涅窒(えれつきてりてーとまぐねち)斯密斯(す)として、親和の理すでに明かになるによつて、学問の道においても、やヽ此論なきにあらず、しかも越列機のちからは、地震によつて障碍お受る事は、既に世人の知る所なり、 地震前兆お知るの法、童蒙のため図にあらはして、その指南お訳す、左の如し、〈◯図略〉 図のごとく磁石お紐にてむすび、天井あるひはかもいなどより釣さげ、その磁石へ鉄の釘のるいお親和させ置、その真下へ銅だらいの類なににても、釘のおつる時、その音ひヾく品おすえ置べし、地震これなき時は、附著ありて落るといふことなし、まさに地震あらんとするときは、磁石黒鉄に親和の利用お失ふがゆえに、鉄釘忽ち承器に落下して、その兆お人耳に益す、これ地震前知の一良法とす、図おみてよろしく察解すべし雲々、 鷹築逸民誌