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茅窻漫錄

舎利並ばさる
仏者のいふ舎利は、飜訳名義、金剛明経、法苑珠林等に多く載せて尊重せしより、此邦にも永観律師が舎利講式、妙幢が舎利験論、亮汰が舎利礼科注などに、仏者より至宝奇瑞の事さま〴〵に伝はれど、是は獣畜魚介にも多くあるものにて、実は病癖の凝渇したる物なり、獣畜にある者は、本草綱目に載せたる鮓答なり、其色白黒黄赤ありて一様ならず、人にある者は、火焼する故に多くは瑩白なり、狗にあるお狗宝といひ猿にあるお猿棗といひ、猪にあるお猪靨といふ、其中馬に多くある者なり、至りて大なるは毬鞠のごとく、小なるは木楼(つぶ)子のごとし、其形も一様ならず、〈○中略〉馬、狗、猿、猪の類、此病癖あるときは、此獣にもあるべし、一物には限るべからず、浪華蒹葭堂に、ばさる獣お写真せしあり、図のごとし、〈○図略〉
外に一種阿媽港(あまかは)より渡す大舎利あり、是は鮓答にあらず善薩石なり、本草綱目にも見えて、嘉 州娥眉山より出だす事、諸書に多く見ゆ、此邦にては、能登国鳳至郡菩薩谷より出づる者、色黄 にして長一寸許、又大和国反田よりも出づ、又対馬の六万石も同種なり、