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平家物語

競事
むね盛卿、〈○中略〉あつはれ馬や、馬〈○木下〉はまことによひ馬で有けり、されどあまりにおしみつるがにくきに、主が名のりおかなやき(○○○○)にせよとて、仲綱といふかなやきおして、馬屋にこそ立られけれ、まらふ人来て、聞え候名馬お、見候はゞやと申ければ、そのなかつなめにくらおけ、ひき出せのれ、うて、はれなんとぞの給ひける、〈○中略〉たゞ今しも三井寺には、わたなべたうより合て、きおふがさた有けり、〈○中略〉きおふ、かしこまつて申けるは、伊豆のかみ殿〈○源仲綱〉の、木のしたがかはりに、六はらのなんれうおこそ取てまいつて候へ、まいらせ候はんとて奉る、伊豆のかみなのめならずよろこび給ひて、やがておがみおきり、かなやきおして、その夜六はらへつかはさる、夜半ばかりに、門の内へおひ入たりければ、むまやに入て馬共とくひあひければ、その時とねりおどろきあひ、なんれうがまいつて候と申す、宗盛の卿いそぎ出て見給ふに、むかしはなんれう、今は平らのむねもり入道といふ、かなやきおこそしたりけれ、