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雲錦随筆

摂州東生郡滓江(かすがえ)村の農家に、文化五年戊辰四月、白牛出生しけるにより、其評判四方に高く、殊更に物見高き浪花の貴賤、我も〳〵と彼地に到り、群集する事火し、古今の珍事といふべし、〈予○暁鐘成〉幼き頃白鹿、白猪等は観物とせしお見たり、白猪は異国より渡りしなどいひて、名おういつとはるけんといへり、按ずるに、ういつとは蘭語の白といふこと、はるけんとは猪の蘭語也、然れども白牛は未だ見聞せざる所也、本草綱目に、黄額牛は額上に一花黄なる者あり、 白胸牛は黄牛にして、胸前一花白く、掌の大さなる者あり、 牛中王は、白牛にして頭黄なる者也、 竜門牛は角の闊さ相去ること一尺、是亦牛中の王也、