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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
近江国高島郡に、平等院河上庄といふ所に、武蔵阿闍梨勝覚といふ僧あり、くだんの勝覚が父家にかひける牛、夜毎に必うめく事侍けり、其うめきごえたゞにあらで、物お雲やうに聞えければ、人あやしみて、耳おたてゝ聞ければ、阿弥陀経になんきゝなしてけり、若ひが聞かと、人おかへてきかするに、皆同じさまにきく、うめきはじむるよりこえおあはせてあみだ経およむに、首尾あひかなひてはてけり、必夜に一度かくうめきける、先生のあみだ経の持者の畜生道に入にけるにや、あはれなる事なり、