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北条九代記

相模守時頼入道政務附青砥左衛門廉直
相州時頼の三島詣ありけるに、藤綱生年二十八歳、忍びて供奉いたし、下向道に趣き給ふ所に、人人の雑具どもお牛にとりつけて、鎌倉に帰るとて、片瀬川の川中にて、此牛尿しけるお、藤綱申けるは、哀れ己は守殿の御仏事の風情しける牛かなと打笑ひて通りける、侍ども聞付て、咎め問しかば藤綱申すやう、さればこそ、此比数日雨ふらず、田畠葉おからし、諸民うえお悲しむ所に、此牛尿おせば、田畠の近き所にてもあらで、川中にて捨流しつることよ、