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徒然草

牛おうる者あり、買人、明日其あたひおやりて牛おとらんといふ、夜のまに牛死ぬ、かはんとする人に利あり、うらんとする人に損ありとかたる人あり、是おきゝてかたへなるものゝ雲、牛の主誠に損ありといへども、又大なる利あり、其故は、生あるもの死の近きことおしらざる事、牛すでにしかなり、人また同じ、はからざるに牛は死し、はからざるに主は存せり、一日の命万金よりもおもし、牛の価鵝毛よりも軽し、万金お得て一銭おうしなはん人、損ありといふべからずといふに、皆人嘲りて、其理は牛の主にかぎるべからずといふ、