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西遊記

牛の生皮(いきがは)
鹿児島に遊びける頃、めづらしき罪人有りけり、城下お去る事遠き田舎の百姓何某といへる者、欲心深く愚かなりしが、かねて何者にか聞けん、牛の生皮は価たつときものなりとて、親しき友壱人かたらひて、牛おいきながらに皮お剥取りぬ、其くるしみ鳴事たとへんかたなし、剥終りて其皮お売けれど、格別の重宝になるものにあらずとて、誰買求る人もなかりし、此事村役人聞及て、けしからざる心根の者なりとにくみて、城下へ訴へ、城主にもいたくにくませ給ひて、弐人共に獄屋にめしこめられ、ついに刑おくはへられにけり、仁政禽獣に及べりといふべし、