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兵法一家言

先年予〈○佐藤信淵〉上総国大豆谷に在し時、小金牧の牧士等、過半我家門人なりき、其内に於て滝沢村清兵衛頗る乗馬の達者にて、小金七牧の第一と呼れたる牧士なり、小金の柳沢牧に直径二町余の泥沼あり、此お馬にて乗り渡る者は、時に予と清兵衛と二人より外には絶て無かりしなり、文化年中、野馬懸り中山信濃守殿、野馬捉御用に付き、小金牧に出役の砌、予と清兵衛が彼泥沼お乗渡ることお内々切に懇望に因て、已ことお得ず行て乗渡せり、