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西遊記

権馬(ごんば)
薩州、日州の辺は、都遠ければ却て古代の風残れる事多し、諸所の神社に権馬といふ事あり、権馬といふ名目、東鑑にも見へたりとぞ、其権馬といふ事いかなる事と所の人に問ふに、何にても心願ある人、其思ひ崇ふ所の神社に権馬お奉るといふ、其式小荷駄馬、野飼馬お不撰、数十百匹取集め、鞍あぶみ皆具して、其上に幣お切かけ、口取の者馬壱匹に三人程づヽ付て、皆白衣に襷(たすき)かけ、神楽の太鼓お相図に其馬お壼度に追立、鳥井前より拝殿お廻る事三逼、数十百の馬、数百人の口取、いやが上に折重り、我先にと一同に押廻る、其間神楽お頻りに奉る、太鞁の響、人馬の声火敷して、一村に震るふ事なり、此事済て流鏑馬お始む、いといさましくて、古風なる事なり、