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大鏡

六条式部卿の宮と申しは、延喜帝一腹御兄弟におはします、野の行幸せさせ給ひしに、此宮供奉せしめ給ふべかりけれど京の程遅参せさせ給ひて、かつらの里にぞまいりあはせ給へりしかば、御こしとゞめて、さきだて奉らせ給ひしに、なにがしといひし犬かひの、犬のまへ足おふたつながら肩に引こして、ふかき河の瀬わたりしこそ、行幸につかうまつり給へる人々さながら興じ給はぬなく、御門も興ありげにおぼしたる御けしきにこそ、みえおはしましゝか、