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宇治拾遺物語
十四
今は昔、御堂関白殿〈○道長〉法成寺お建立し給て後は、日毎に御堂へ参らせ給けるに、白き犬お愛してなん飼せ給ければ、いつも御身おはなれず、御ともしけり、或日例の如く御ともしけるが、門おいらんとし給へば、此犬御さきにふたがるやうに吠まはりて、内へ入れ奉らじとしければ何条とて、車よりおりて、いらんとし給へば、御衣のすそおくひて、引とゞめ申さんとしければ、いかさまやうある事ならんとて、榻おめしよせて御尻おかけて、晴明にきと参れと、めしにつかはしたりければ、晴明則参りたり、かゝる事のあるはいかゞとたづね給ければ、晴明しばしうらなひて申けるは、これは君お呪咀し奉りて候物お道にうづみて候、御越あらましかばあしく候べき、犬は通力の物にてつげ申て候なりと申せば、さてそれは、いづくにかうづみたる、あらはせとのたまへば、やすく候と申て、しばしうらなひて、此にて候と申所おほらせてみたまふに、土五尺ばかり堀たりければ、案の如く物ありけり、〈○中略〉犬はいよ〳〵不便にせさせ給ひけるとなん、