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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
遠江守朝時朝臣のもとに、五代民部丞といふ者有けり、件の民部丞あお毛なる犬のちいさきおかひけり、此犬十五日、十八日、廿七日、月に三度はいかにも魚鳥のたぐひおくはざりけり、人あやしみてわざとくゝめけれども、猶くはざりけり、十五日十八日はあみだ観音の縁日なれば、畜生なれども、心あればざも有ぬべし、廿七日は何故にかくあるにかとおぼつかなし、是およく〳〵あんずれば、此犬いまだおさなかりけるお、かの民部丞が子息の小童かひたてたりけるなり、件の小童そのかみうせにけり、かの月忌廿七日にて有けるお忘れずしてかかりけるにや、あはれふしぎなる事也、仏菩薩の縁日、並に主君の月忌お忘れず、恩お報ずる事、人倫の中にも有難き事にて侍に、いふかひなき犬畜生のかくしけん事、有難き事也、