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新著聞集
二/酬恩
犬嶮難お救ふ
完文三年に、駿府の在番に酒井伊予守殿おはせし小屋に白犬のありしが、常に予州殿の前に出るお、小坊主に仰て物お喰せたまひし、ある時、予州殿遠回りにとうめといふ所に出たまふ、小坊主も供にまいりしが、過て谷に落たりしに、いづくより来りしやらん、件の白犬走より、帯のむすびめお噬へ曳て岡おみあげて吠ければ、各これに驚き引あげて助けてけり、