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嬉遊笑覧
十二/禽虫
犬の声おべう〳〵といふは、彼遠吠するおいふなるべし、猿楽狂言にもみえたり、又卜養が狂歌集に、いぬまもちといふものお出しけるに、べう〳〵と広き庭にてくひつくは白黒まだらいぬま餅かな、望一千句、古宮はびやう〳〵とあれ秋さびし狐お犬の追まはりぬる、夷曲集に、犬桜みてよむ歌は我ながらしかるべうともおもほえず候、土佐国人は今も犬の声おべうべうといふ、又べか犬とは、めかゝうしたるやうの犬の面なればいふにや、埋草〈完文元年成安撰〉堺雲也、独吟千句、〈半井と養落髪千句なり〉くれもぜぬ花一枝お所望してのぞいてみればべいか紅梅、垣の内に日も永べえの犬ふせり、因果物語に、べか犬おつれて来れり、又べいかともいへり、是おおもへば、吠狗の訛れるもしるべからず、続山井、珍花とてあいすべいかの犬ざくら、重昌珍花は菻狗(ちん)お含めり、中井竹山が茅草危言に、狗の子おべかと雲といへり、子狗には限るべからず、