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嬉遊笑覧
十二/禽虫
払菻狗、日本紀略に、契丹大猟二口、猧子二口と見えたり、猧子是なら大猟は俗にいふ唐犬なるべしといへれど、猧子一本には猱子ともありて、定かならず、近くはいつの頃わたりしか、続山井の発句〈○珍花とてあいすべいかの犬ざくら、重昌、〉は、これおいへりと見ゆ、安澹泊答寒川儀太郎手簡、さつまより出候犬の一種ちんと申候、正字御尋にござ候、すべてかうやうのこと心に留不申、一切覚不申候、北斎書通鑑に有之候、東巍孝静帝高澄に逼られ、朕々狗脚朕と申され候は、近代の落しばなしに能合申候儀と、日ごろ戯言に申出候迄にござ候とあり、これもとよりちんの名義にはあらず、おかしきことなれば、こゝに錄す、さてちんの名義、例の押あてながら、犬に似て小きもの故、ちいといひしが、ちそとなりしにや、近時ちんも位お給はりしと雲る物がたりあり、耳袋に、天明九年、ある大名衆、上京のことありしに、常に寵愛のちん、あとおしたひて付随ひしかば、やむことお得ずして召つれしことさたありて、天聴に入ぬれば、畜類ながら、主人の跡お慕ふ心あはれなりとて、六位お賜はりしとかや、これお聞て、何者か喰ひ付犬とは兼て知ながらみな世の人のう〳〵やまわん、根なしことには有べけれど、其節処々にて取はやしけるまゝしるすといへり、