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過庭紀談

世上に牡丹の下に猫の眠り居る図おえがける多し、是亦彼図の元来の起りに相違せり、彼図の猫は睡らする筈にては無し、本右の図は唐の時、或人さる能画師に正午の牡丹お図しくれよと頼みしに、右の画師、牡丹おえがくは易きことなれども、日中正午の趣おいかヾして画き写さんやと、色々工夫おめぐらして思ひ付き、牡丹の傍に猫おあしらひ、其猫の眼お正午の眼にえがきて、それにて正午の牡丹と雲ふ所おあらわせしなり、左すれば右の図の猫は、眼こそ専一の主なるに睡猫にえがきては何の面白きことも無し、