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枕草子

うへにさぶらふ御猫は、かうふり給はりて、命婦のおもととていとおかしければ、かしづかせ給ふが、はしに出たるお、めのとの馬の命ぶ、あなまさなや、いり給へとよぶに、きかで日のさしあたりたるにうちねぶりていたるお、おどすとて、翁まろ〈○犬名〉いづら、命婦のおもとくへといふに、まことかとて、しれもの、はしりかゝりたれば、おびえまどひてみすのうちにいりぬ、あさがれいのまにうへ〈○一絛〉はおはします、御らんじていみじうおどろかせ給ふ、猫は御ふところにいれさせ給ひて、おのこどもめせば、蔵人たゞたかまいりたるに、此翁まろうちてうじて、いぬ島につかはせ、たゞいまと仰せらるれば、あつまりてかりさはぐ、馬の命婦もさいなみて、めのとかへてん、いとうしろへたしとおほせらるれば、かしこまりて御前にも出ず、いぬばかり出て、たきぐちなどして追ひつかはしつ、