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新著聞集
二/酬恩
猫舌お啖弊す
大坂博労の内、葉山町鍛冶屋八兵衛が妻、かぎりにわづらひて死すべき程ちかづきし比、久しく飼おきし猫、床のあたりお離ずありしに、病人の曰、我は頓て死するなり、なきあとにては、女お可愛がる人もあらじ、いづくへなりとも行よと口説しかば、打しほれてかたはらに居たりしが、病人はかなく成て野おくりに、件の猫輿の跡につき、一町ばかり行しお追反しければ宅に帰り、舌おくひ切て死したりし、貞享二年十月廿八日の事にて侍りし、