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倭訓栞

ねこ〈○中略〉 諺に猫根性といふは、人の心の貪欲お匿し、外に露はさぬ者おいふ、土佐国にしらが山あり、大山也、多く猫住て、猟人も至り得ずといへり、是はまたなるべし鼠とる猫は爪お蔵といふ諺は、説苑に、君子愛口、虎豹愛爪と見えたり、〈○中略〉猫の二歳にて死たりし児に化て、母の乳お毎夜吸たりし事、奥州白川に有、又妾に化し事、江戸にあり、歌に手かひの虎ともよめり、本草に、今南人猶呼虎為猫と見えたり、猫に堅魚節あづけるといふ諺は、後漢書に、使餓狼守庖厨、飢虎牧牢豚といふに同じ、猫に小判見せるといふ諺は、野客叢書に、対牛弾琴といふ類也、但馬養父郡の一村に、猫おもて使とする社あり、農家蚕お養ふ節には、必其使お乞て鼠おかる、其使の猫は、社前の一拳石お持帰也、謝するに及び、又一拳石お随ふ、よて小石丘壑の如しといふ、〈○下略〉
○按ずるに、猫またの事は、猿条猱㹶の下に載せたり、