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古今要覧稿
禽獣
さいのこま(○○○○○) 〈綿羊〉
さいのこま一名らしやけん(○○○○○)は、漢名お綿羊といひ、其大なるものお無角白大羊といふ、これまた夏羊の一種也、今官苑に蕃育せしは、凡百三四十頭もあり、そのうちにて大なるは、牝鹿の如く、小なるは犬の如し、すべて頭小さくして身大なり、毛至て細密にして、長さ二寸許もあり、その年お経ざるものは色潔白にして、年お経るものは、やゝ褐色お帯たり、又黒駁のものあり、眼辺及び口鼻並に淡紅色にて、口小さく鼻低し、喉下より胸t至りて長鬚あるは呉羊とおなじ、耳は横に垂て前に向ふといへ共、後に向たるもあり、牝牡共に角なきは常なれども、たま〳〵角お生ずるものあり、さればその百余のうちにて角あるものは、僅に三四頭に過ぎず、その角に円なるも扁なるもあり、また呉羊と同じく後へ向ふもあれば、よこにわかれて牛角の如きもあり、一種眼辺及び四脚共に黒色のものあり、これは百三四十頭のうちにて、たゞ一頭なれば奇品なり、今此毛おかりて、羅哆絨(らしや)お製するに、舶来のものに異ならず、その毛お採には、四足お木材に結付て刈といへり、扠観文獣譜に、これお餌するに、豆葉お以てする事、馬の如しとあれども、今は大麦お煮熟して食せしむるは、正に餌畜の法お得たるものなるべし、又海外には種々の綿羊ありといへ共、清舶の皇国に載来りしは、たゞ此一種也、