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古今要覧稿
禽獣
ふるもちのい〈ぶた 豕〉
ふるもちのい俗名ぶたは、漢名お豕、一名彖〈○中略〉といひ、〈○中略〉凡本草和名に猪おいのしと訓ぜし外に、豕おふるもちのい、豭猪肉おいのこと訓ぜしによれば、ふるもちのいも、いのこも今のぶたなる事明か也、延喜式〈大学寮〉に、三牲は夫鹿、小鹿、〈○註略〉豕、及び籩実には豚拍五合といひ、〈○註略〉貞観儀式〈和訓栞引〉にも、近江豚一頭といへるは、即今のぶたなるべし、〈○中略〉一種象ぶた〈観文禽譜〉あり、牙長く形常のものよりも至て肥大也といへり、おもふに之お爾雅にて所謂豟の類なるべし、又和名抄に彘お井、野猪お久佐井奈岐と訓ず、この称誤らざるに似たり、然れども古事記、日本紀等に、赤猪白猪などいへるは、皆いのしゝの事にて、古歌にもいとよむものはいのしゝ也、然る時は、古は豕おも猪おも野猪おも、いと称せしとみえたり、後に豕おぶたと訓せしより、野猪おのみいのこといひて、豕おばいと訓ぜぬ様になりたる也といひ、同上また古事記に、我者山代之猪甘也といへる注に、甘は養なり、古へは上下おしなべて常に獣肉お食たりし故に、其料に猪おも養置るなり、〈中昔よりこなたには獣肉お食こと無き故に、猪お養こともなくして、猪といへば、たゞ野山に放れ居る猪のみにて、其は漢国にて野猪と雲、崇峻紀には山猪とあり、人家に養る猪は豕にて、俗に夫多と雲、〓と雲も同物也、豕お韋能古と雲は、たゞ猪と雲ことにて、鹿お加古と雲、馬お古麻と雲と同じ、猪之子のよしには非ず、猪之子は豚字也、○下略〉