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源平盛衰記

頼豪成鼠事
頼豪はからき骨お砕て、皇子おば祈出し進せたれども、戒壇は御免なし、大惡心お超して早死しけるぞ無慚なる、去程に山門又皇子お奉祈出御位に即せ給たりければ、頼豪が死霊もいとヾ成怨霊、山門と雲処があればこそ、我等に戒壇おば免されね、されば山門の仏法お亡さんと思て、大鼠と成、谷々坊々充満て聖教おぞかぶり食ける、是は頼豪が怨霊也とて、上下是彼にて打殺踏殺けれ共、弥鼠多く出来て火なんどは雲計なし、此事隻事に非ず、可宥怨霊とて、鼠の宝倉お造て神と奉祝、さくこそ鼠も鎮けれ、円宗の教お学して可成仏頼豪が、由なき戒壇だてゆへに鼠となるこそおかしけれ、〈○中略〉
守屋成啄木鳥
昔も今も怨霊は恐ろしき事なり、頼豪鼠とならば、猫と成て降伏する人もなかりけるやらん、神も祝も覚束なし、