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松屋叢話
春海の世におはせし頃、源氏物語に、いたちのまかげといふ事の見えたるがいぶかしきよし、常にいはれ侍りき、その家にて歌の会せられしおりに、橘千蔭、清水浜臣などにもかたりあはされしかど、とかうことはりいひたるものもなかりしに、このごろ余〈○小山田与清〉がおもひよりたるふしあれば、こゝにいふべし、〈○中略〉今の世にも鼬の立て前足お目〈の〉上にかざしつゝ、人おまもることあるお、いたちのまかげとはいへる也けり、遠方のぞむ時は、かならずしも眼上に手おさしかざすわざ、今もむかしもなほおなじかるべし、