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兎園小説
二集
まみ穴、まみといふけだものゝ和名考、並にねこま、いたち和名考、奇病、〈附錄〉
著作堂主人稿
鼯鼠は和名もみ、一名はむさゝびなり、〈○中略〉鼯鼠の和名は毛美なれども、いとふるくよりむさゝびとのみ唱へたるにや、歌にももみとはよまず、万葉集第三に、むさゝびは木ずえもとむとあし引の山のさつおにあひにけるかも、といふ歌あるお見ても知るべし、しかれども古言は多く田舎に遺るものなれば、むかし関東にては、齬鼠おおさ〳〵もみとのみいひしなるべし、その証は、今も日光山のほとりにては、齬鼠の老大なるものお、ももんくわあといへり、ももんは、もみの訛なり、くふあはそが鳴く声なるべし、又高老の義にてもあらん、物の老大なるお高老お歷たりといふ是なり、さてこのもみお、下野にてはもんぐわあと唱へ、又武蔵にては、まみといへるなるべし、〈もとまと音通へり〉