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宇治拾遺物語
十二
後鳥羽院御時、水無瀬殿による〳〵山よりからかさほどの物のひかりて、御堂へおび入事侍りけり、西おもて北おもてのものども、めん〳〵にこれおみあらはして高名せんと、心にかけて用心し侍りけれ共、むなしくてのみ過けるに、ある夜、景かたたゞひとり中島にねて待けるに、例のひかり物やまより池のうへおとび行けるに、おきんも心もとなくてあふのきにねながらよく引て射たりければ、手ごたへして池へおち入物ありけり、そのゝち人々につげて火おともしてめん〳〵見ければ、ゆゝしく大なるむさゝびの年ふり毛などもはげしふとげなるにてぞ待りける、