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嬉遊笑覚
十二/禽虫
蝙蝠の飛お見て、かうもり〳〵山淑くりよ、柳の下で水のましよと呼ことは、彼よくむせる物とするによれり、おもふに鳴声のちう〳〵といへるが哽ぶさまに見ゆるおいふなり、可笑記に、ぶおとこのさたの限りかうもりのつにむせたるやうになきづらなる侍あり雲々、按ずるに、唾にむせるとは、後に訛りたるなり、犬筑波集に、〈活字版〉おぼろ月夜にわたるかうもり、照もせずくもりもやらずすにむせて、古くはみな醋といへり、咽ばせむとて、山椒くりよ水飲しよといふなるべし、又醋お飲ましよともいへり、同意なり、守武千句に、山しようことにむせわたらはやかうぶりのすもめがたりのつれ〳〵に、かうもりに醋山椒おいへること古し、百物話に、山椒にむせではあかゞねにかぶりつきてなおるなどみえたり、和漢三才図会雲、蝙蝠性好山椒、包椒於紙抛之則伏翼、随落竟捕之、といへるは非なるべし、紙につゝむに山椒にはかぎらず、何にてもおなじ事なり、醋も山椒も彼が好惡によるにあらず、