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重修本草綱目啓蒙
三十五/寓類怪類
茸〈○中略〉
附錄、猨、 てながざる えんこう 一名九卿〈抱朴子〉 木巣南〈樹萓錄〉 孫文蔚 林大節〈共同上〉 参軍〈古今注〉 袁公〈呉越春秋〉 臂童〈清異錄〉 〓眉虫〈事物紺珠〉 李道殷 白猿公〈共同上〉 巴児〈典籍便覧〉 石眉虫〈同上〉 野賓〈事物異名〉 黒衣郎 巴西侯 白袁公 林泉逸士 閑雲処士 石媚虬 山公〈共同上〉 狷〈獣経〉 小猴〈南寧府志〉 猿猴〈類書纂要〉
猿は即猨の俗字、和産なし、然ども画図おなし、或土偶と為て小児の戯玩とするもの多し、嶺南蜀川の産にして、寒国にては育せず、常に木上に棲みて地に下らず、故に地に下る時は洩瀉して死すと雲ふ、その手甚長くして、足は猴と同じ、高山の樹枝より数十猿、手と手とお連ね下りて渓水お飲む、謝霊運が遊名山記に、観掛猿下飲、百臂相連と雲へり、是左右の手倶に長きなり、此に或言其通臂者誤矣と雲、通臂とは左手お伸せば右手短くなり、右手お伸せば左手短くなるお雲、又此に其色有青白玄黄緋数種と雲、その内白猨は希なれども、嶺南大廋嶺には白猨多く、梅花盛なる時は、花と猨と色お争ひ分ち難しと雲り、説郛に白猿伝ありて、老猨害お為すことお載す、和俗の言伝る酒顚童子の事の如し、又本邦の俗、猩猩の手と称して珍蔵する物あり、其形小にして毛深、赤色猩氈(せう〴〵ひ)の如し、痘家競乞て痘痒お瘙しむ、是緋猿の手なるべしと、先師の説なり、猨は猴と類同けれども、性善にして貪心なく猴に異なり、