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常山紀談

持資〈○太田〉京に上りしとき、慈照院殿〈義政〉饗応せんとなり、慈照院殿に一つの猿あり、見しらぬ人おば、必かき傷ふといふ事お持資聞て、猿つかひに賂して猿おかり、旅亭の庭につなぎ、出仕の装束して側お過るに、猿飛かゝるお、鞭お以て思ふさまにたゝき伏たれば、後には猿首おたれて恐れ居たり、持資猿つかひの人に礼謝して猿おかへしたり、かくて饗応の日、かねて慈照院殿かの猿お、通るべき所につなぎおきて、持資が狼狽するお見んと待れたるに、持資おかの猿見るとひとしく地に平伏す、持資衣紋ひきつくろひ打過たりければ、唯人に非ずと、大に驚れたるとなり、