[p.0295][p.0296]
続撰清正記

清正家中〈江〉申出さるゝ七箇条〈○中略〉江戸上り下りの船中にても、四書およませて聞給ひけるが、ある時伏見にて、論語に自手朱引お致給ふお、子飼の猿が、常々傍に居てつく〳〵と見けるが、清正用有てたゝれたる跡にて、此猿筆に朱お付、論語にめたと塗付たるお見給ひて、上古より猿は見る事学と見へたり、昔有僧、終南山に隠る、時に袈裟お失す、猿これお盗み、其身にきて岩上に座禅す、群猿これに効て座禅す、此猿たはふれに袈裟おかけ、人まねに座禅したれども、其功徳によつて成仏したるときけば、此猿もわるさに、論語に朱お付たれども、少は聖人の道にかなふべきかと宣て、一笑し給といふ物語お、小耳に聞ける間、武勇一偏の大将にては無事必せり、