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のせざるさうし
さるほどに、たんばのくに、のせの山に、としおへしさるあり、なおばましおのごんのかみと申ける、その子に、こけまるどのとて、世にこえてちえさいかくげいのふすぐれけるかたあり、此こけまるどの、あふぎおつとり、一さしまふて入給ふお、いかなるものもみるより、心そらになし、おもしろからずといふ事なし、さるあひだ、こけまるどの、やう〳〵はたちばかりにならせたまふ、ちゝはゝいかなるかたよりも、御よめごおと申させ給へ共、みゝにもきゝ入たまはず、われおもふしさい有、なみなみならんものおいかでかつまにむかへん、いかなるくぎやうてん上人のむすめならでは、ひさしからぬうき世に何かせんと、おぼしめしける、世中の人たち、身のほどしらぬ望して、おもひ給はんやからもあるべし、〈○下略〉