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本草綱目訳義
五十一/獣
鹿しか かのしヽ、〈古歌に〉よぶこどり、もみじどり、 山のかせぎ かせぎ 雄おさおしか〈和名抄、日本紀古名、〉 今は別にさおしかと雲ものあり、雌おめか、〈和名抄〉 すヽ力〈歌〉 し かの子おかご〈古歌〉 かのこ すがる〈歌〉
是は山中に多し、ひるは隠れて夜出る、人の居ぬ所にはひるもいる、和州春日山、芸州宮島に多し、何れも市中にもいる、何も毒がい禁制也、家のあまり物お犬にくわせず鹿お蓄ふ、犬は鹿お害する故かわず、雄は茶色に白き斑文あり、集解に黄質白斑とあり、子鹿の時は斑文よく明也、唐で裘にする、日本にははらごもり皮お巾著にする、是お胎皮、広東新語是お薬用にするお鹿胎と雲、逢言おじかは長角二つあり、年おふれば長さ三尺多枝あり、三四五もあり、甚は十六股もあり、是は珍し、其等と長き角も毎年落る、夏至の時分おつると直に生ず、鹿は陽物にして陰気お生ずるに感じて落る、たらの木の芽お食故、楤木のめの名お美濃でつのおとしと雲、又小薊の新葉お食ふと落と雲、皆俗説也、是は下からふくろづの出る故也、鹿茸と雲、初は紫にして九く茄子の如し、一日の中長く出る、枝のあるはせうがの如く分れ出、子の内に生ずる角は枝なし、年おへて枝かづ多し、〈○中略〉雌には角なし、形は同じ、雄より小也、斑文なし、其内山中にいる鹿は痩小にして色はつきりとわかる、市中は形大にして毛きたなし、春日宮島のは紙おくらふ、然れども不浄なれば不食、