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重修本草綱目啓蒙
三十四/獣
麝 一名抜萃団〈輟耕錄〉 射香〈医学正伝〉 臍香〈痘疹金鏡錄〉
和産未だ出でず、本邦にも諸州深山に香気ある獣屎あり、奥州及蝦夷等には殊に多しと雲、然ども麝は香お剃出して、屎溺中に覆ふと雲て、その屎に香気あることお言はざる時は麝類に非ず、舶来の麝香数品あり、大都二つに分つ、臍麝香とうつしとなり、臍麝香は全形なるお雲、大さ一寸許、又微大なるもあり、形隋なるもあり、長きもあり、外は皆毛ある皮にて包裹す、新渡には糸にて縫合たるあり、偽なり、毛は淡褐色なり、又他色もあれども、白毛なる者は品良ならず、重さは大抵五銭より八銭に至る、形正円なるおまる手と雲、又やまだかと雲、扁長なるおひらでと雲ふ、先年はまるでに上品あれども今はひらでの方に上品あり、上品は体燥きて細末となすべし、体湿ふ者はべたと名づけて下品とす、細末とならず、かたまりて紙捻の如になりて色黒し、燥けるは香気少き者と雖ども、他薬に合して香多し、湿ふ者に香気好き品ありと雖ども、他薬に合して香少し、況や新渡の湿りて悪臭なるおや燥ける者お皮お去て、中の粉お取るおこぼれと雲、上品の称とす、通志略に、宕州散麝香の文あり、又うつしと雲は、一名うつりとも雲、他物お麝香の中に入れ置て、その香気お移し取るお雲ふ、鯨糞或朽木お粉にして器に入、臍麝香おその中に入れ、二三年陰処に置けば、麝香その粉にうつるものなり、その麝香お抜去りて、粉のみお販ぐ、最下品なり、又鯨糞或朽木粉の中へこぼれて拌合すもあり、唐山にても雞子黄(たまごのきみ)お煮て移すことお本草原始に雲、又茘枝核に移すこと、本草匯に雲ふ、又茘枝核焼灰入焼酒、拌和充混と、本経逢原に雲ふ、其色は赤黒し、赤色多者お上とす、あかふと雲、色黒き者おくろふと雲、下品なり、うつしも色黒し、麝香に酸臭なる者、甘臭なる者、辛臭なる者、苦臭なる者、烟臭なる者、朽臭なる者あり、皆良ならず、この六臭なくして香気つよく、鼻お衝者は真なり、臍麝香お方書に当門子と雲ふ、上品の麝香包お開けば、赤黒粉の中に豆の如くなる円塊あり、大抵八分許の重さあり、大なる者は一銭余なるもあり、希なり、質軟にして幾重も畳りて鮓荅(せきふん)の如し、是当門子なり、本草集要に、当門子麝香中如小豆作丸者是也と雲、東医宝鑑に破看麝内有顆子者当門子也と雲へり、又木実お以偽る者あり、黒色にして、堅し、試法火に入れ焼けば、声ありて友残らずして香気好く、後に微く毛臭あるものは真なり、焼ざる前の香と、已に焼く時の香と異ならざるお択ぶべし、焼ざる前は香気好くして、焼けば臭気になりて、灰残るものは偽なり、味は鹹苦なるお良とす、真偽倶に毛お雑入すれば、集解に、毛以在裹中為勝と、東医宝鑑にも雲へるは非なり、その已に香お出し去りたる殻も香気あり、和剤局方に麝香空皮子お用ることあり、