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倭訓栞
前編/七幾
きつね 狐おいふ、きつに(○○○)ともいふ、伊勢物語のきつにはめなでお、花鳥物語にはきつねはめなでと書り、又万葉集に、狐にあむさむはきつ(○○)とばかりもいへる也、けつねともいへり、霊異記にきつ寝よといふは旧き説なれど心得がたし、きは黄也、つは助辞、ねは猫の略なるべし、俗に狐お野干とす、仏経に射干と見えて狐とは異れり、字彙に犴同野犬、似狐而小、出胡地といへり、源氏にきつねのすみかといへるは、文集に狐隠蘭菊叢といへる是也、大和添上郡眉間寺の西北に七匹狐といふ所あり、聖武天皇母公の陵の地にして、立石に狐杖おつき踊る形お造る、もと七狐ありしが、四個は谷に落て破砕し、三狐お存すといふ、其所以お詳にせず、